戦果だけでいいのか

朝刊 2014/06/30 スポートピア

いま、オリンピックなどの選手強化に充てられる公的資金について、その配分役を日本オリンピック委員会(JOC)から新しく設置する独立行政法人に移すべきだとの議論がある。JOCは競技団体(NF)への強化費配分を含む強化事業と大会への選手団派遣、オリンピックムーブメントという3事業を行っているが、これを分離させるという内容である。

私はJOCの選手強化部長であり、JOC切り離し案をまとめた超党派スポーツ議員連盟の一員でもある。正直言って難しい立場にいるが、ここはJOCの人間として考えを述べたい。現状体制がベストであると。

公金が使われる以上は、メダルという戦果が求められることは承知している。ただ、それだけを指標にした選手強化でいいのか。JOCはただ強くなればいいという選手づくりはしていない。人間性や代表選手としての自覚を育むことを重視してきたし、それが国民に愛されるアスリート像だと信じている。

団結力の強さという日本人の精神性を重んじて絆を育み、チームジャパンとして競技の垣根を超えて連携を深める。こうした選手たちの心に寄り添う強化は、現場に近いJOCでなければできないと自負している。

近年の五輪でJOCとNFの強化は成果を残してきた。強化費配分の移管は来春を目指すスポーツ庁発足に合わせて予定されているが、2年後に迫るリオ五輪の直前、あるいはリオ五輪後に強化体制を変えて2020年東京五輪を迎えるのはリスクが高すぎる。

今回の議論では、NFによる公的資金の不正受給が続いたことでガバナンスの問題が指摘されている。猛省しなければならないが、不祥事を生んだ原因としてNFの財源不足が挙げられる。正規雇用者のいないNFはJOC加盟団体の3割近くに及ぶ。役員、スタッフともボランティアに頼り、人手不足で運営するだけで精一杯だ。私自身もスケート連盟と自転車連盟の会長を務めているが、スポンサー探しなど休む暇がない。

JOCはこうした問題についても向き合おうとしている。10~20名の公認会計士や弁護士などで構成する組織を設け、NFに指導や助言を行うことを考えている。そして公的資金を無駄にしないためにも、育成した人材が現役引退後も十分に活用され、経験やノウハウを社会に還元できる環境づくりを目指すべきだ。

20年オリンピック・パラリンピック招致が実現したのはオールジャパン態勢で取り組んだからだ。JOCは国からの補助金に加えて民間からもスポンサーを募り、NFの強化を支援してきた。そうした活動は民間の活力を引き出すことにもつながったのではないか。おかみからの上意下達では、あれだけの力は発揮できなかっただろう。

(日本スケート連盟会長)